1.パワハラをする上司と、しない上司がいるのはナゼ?
パワハラは、職場の働く環境を悪くし、休職・離職者が増えるなど、組織の生産性を大きく低下させるだけでなく、それが明るみに出れば、企業イメージは大きく低下します。
パワハラは、経営していくうえで真剣に取り組まなければならない課題です。
出典:職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11208000-Roudoukijunkyoku-Kinroushaseikatsuka/0000164173.pdf
しかし、中小企業においてはパワハラ対策がなかなか進まなかったため、政府はいわゆる『パワハラ防止法』を制定し、2020年6月から、全ての企業はパワハラ対策に取り組むことが義務付けられています。
『パワハラ防止法』で定められたパワハラの定義や企業に求められる対策については、こちらのコラムでもご紹介しているので、あわせてお読みください。
『パワハラ防止法』の制定を受けて改訂された、厚生労働省の『パワーハラスメント対策導入マニュアル』(以下「パワハラ防止マニュアル」とする)を見ると、裁判によって企業の責任が問われた事例がいくつか紹介されています。こういった点をみても、企業にパワハラの防止が求められていることが分かります。
しかし、パワハラに関して、私が以前から疑問だったのが、同じ企業内には、裁判で有罪になるような上司がいるのに対し、問題を起こさない上司もいる。この違いはいったい何なのか? 問題を起こす不幸な上司を無くすためにはどうすれば良いのか? ということでした。
「最強のチームビルディング」を学び、実践するなかで分かってきたことがあるので、皆さんにもお伝えしたいと思います。
2.「パワハラ防止マニュアル」に沿った取り組みをしたらパワハラが増えた?
「パワハラ防止マニュアル」では、調査で効果があったとされる取組を7つ紹介し、これらを実施することを勧めています。パワハラ予防には一定の効果がある取組なので、「パワハラ防止にまだ取組んでいない。」「何から手をつけたら良いか分からない。」という企業は、まずはこれから取組むのも良いと思うので紹介します。
「パワハラ防止マニュアル」が勧める、パワハラ防止のための7つの取組
- トップのメッセージ
組織のトップが、パワハラを職場から無くすべきであることを明確に示す - ルールを決める
就業規則に関係規定を設け、労使協定を締結し、予防・解決についての方針やガドラインを作成する - 実態を把握する
従業員アンケート等を実施する - 教育する
パワハラに関する研修を実施する - 周知する
組織の方針や取組について周知・啓発を実施する - 相談や解決の場を設置する
企業内に相談窓口を設置し、対応責任者を決める。場合によっては外部の専門家と連携し、外部窓口を設ける - 再発防止のための取組
行為者に対する再発防止研修を行う
しかし、残念ながら「パワハラ防止マニュアル」の取組を実施しただけでは、パワハラは無くなりません。
パワハラ防止法の施行に備え、2020年1月以降、私が住んでいる愛知県でも、厚生労働省が「パワハラ防止法」や「パワハラ防止マニュアル」の周知をする「パワハラ防止研修」を行っていました。
私も、愛知県の「働き方改革支援専門家」として県の要請をうけ、研修後の個別相談に対応するために研修に出席したのですが、その研修中にとても印象に残るやりとりがあったのです。
(企業の担当者)「パワハラの定義や裁判例に載っていない事案が自社で起こった場合、それがパワハラに該当するかどうかを、どう判断すれば良いのですか?」
(お。私や参加者全員が知りたい、良い質問だな~。)
(厚労省)「法律の制定により、今後裁判で争われる事例も増えてくると思うので、最新の判例も加えつつ判断してください。ただし、そういった裁判で負ける可能性を低くする意味でも、「パワハラ防止マニュアル」にそった体制を整えていただければと思います。」
(・・・そんなご無体な(笑))
「パワハラ防止マニュアル」では、再発防止のために、パワハラを行った者に対する研修をすることを求めています。しかし、「パワハラらしき行為」をパワハラと断定できなければ、パワハラを防ぐ指導はできません。再発防止策は不発に終わります。
厚生労働省は、法律が定められたことにより、パワハラの裁判が増えると考えています。不幸にも、それはあなたの企業かもしれません。そんな時でも、「パワハラ防止マニュアル」に沿った取組をしっかり行っていれば、会社が責任を取らされる可能性は減りますよ・・・。
あくまで、当日の研修担当官の見解になりますが、厚生労働省はそう言っているように聞こえました。つまり、パワハラ予防に取組んでも、パワハラは完全に防止できないと考えているのです。
そのことは、調査からも明らかになっています。
出典:職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11208000-Roudoukijunkyoku-Kinroushaseikatsuka/0000164173.pdf
「パワハラ防止マニュアル」に沿った取組を行って、効果を実感するものが多くあるにもかかわらず、パワハラの相談件数が増えているということは、その取組は根本的な解決策ではないと言うことです。
パワハラを起こさないためには、根本的で正しい打ち手が必要なのです。
3.パワハラを防止するために教育しなければならない2つのポイント
なぜ、パワハラ予防に取組んでも、パワハラが無くならないのか?
それは、私の1番最初の問いに答えていないからです。
「パワハラをする人と、しない人の違いは何?」
この問いに答えることができなければ、パワハラを無くすことはできません。
パワハラは、業務を遂行する上で ①自分と他人の違いを理解していない人が、②仕事で成果を上げるコミュニケーションの取り方を知らないために起こっています。
つまり、この2つのポイントを教育できれば、パワハラが起こらなくなるのです。
4.自分と他人の違いを「診断」により知る。
みなさんは、「人と人の違い」をどういったものと捉えていますか?
「敵を知り、己を知れば、百戦殆うからず」と言いますが、自分と相手の違いが理解できれば、対人関係で問題が起こる可能性をぐっと減らすことができます。
私たちは、人の違いを、「脳の特性」「コントロール特性」「欲求」の3つの違いで捉えます。
この3つの違いは、いわばその人の取扱説明書です。これらの違いが、それぞれの仕事の得意・不得意やコミュニケーションの取り方の特徴、人の行動の背景などを決めているのです。
「人と人は違う」ので、個人の特性の違いを捉えるのが上手な上司もいれば、下手な上司もいます。そのため、私たちは、その違いを精度の高い診断により把握することをおすすめしています。
パワハラを防ぎたいのであれば、人と人の違いについて正しく知り、お互いのことを知ったうえで、問題が起こらないよう、相手に合わせてどのような行動をしなければならないか、学ぶ必要があるのです。
5.仕事で成果をあげるコミュニケーションの方法を知る。
パワハラ防止に取組むと、パワハラとされるようなことに気を付けたり、相手の気持ちを傷つけないように言い方に気を付ける、といったことはできるようになります。
出典:職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11208000-Roudoukijunkyoku-Kinroushaseikatsuka/0000164173.pdf
しかし、その一方で
「パワハラが怖くて、部下を指導できない(指導したくない)・・。」という声も聞こえてきます。
パワハラの問題が広く認知されて以降、「物言わぬ上司」が問題化してきました。企業としては、パワハラが無くなっても、組織の生産性が下がっては元も子もありません。
パワハラを起こさずに、かつ、仕事で成果をあげるためには、そのためのコミュニケーションを学ぶ必要があります。仕事で成果をあげるコミュニケーション技術として知られるのが「フィードバック」です。
人材開発の第一人者といわれる、立教大学の中原淳教授は、フィードバックを「耳の痛いことをしっかりと伝え、成長を立て直す人材育成法」と定義しています。
組織の仕事のパフォーマンスが落ちないように、人の違いを学ぶのと併せて、フィードバックの研修を行いましょう。
6.まとめ
2020年6月に「パワハラ防止法」が施行され、企業はパワハラ防止に取り組むことが法律により規定されました。法律が制定されたこともあり、今後はパワハラに関する労働争議も多くなることが予想されます。
企業がパワハラ防止に取組むにあたり、最も参考とされるのが、厚生労働省が作成した「パワハラ防止マニュアル」なのですが、残念ながら「パワハラ防止マニュアル」だけではパワハラを防ぐことができません。また、パワハラが無くなっても、仕事のパフォーマンスが落ちては元も子もありません。
組織の生産性を落とさずにパワハラ防止に取組むのであれば、人と人の違いを知り、かつ、仕事で成果を上げるコミュニケーションを取るための研修を行うことが必要です。