2020年、小泉進次郎環境大臣が育休を取得し話題になりました。
育児休業の取得率は、2019年度女性は83%、男性は7.48%。特に男性は、2018年度の6.16%からやや増えたものの、政府がイクメンプロジェクトとして目指す2020年度13%、2025年度30%にはまだ程遠い実績です。
東京都の調査によると、取得できない最大の理由が、制度よりも「職場が取得できる雰囲気でない」からです。逆に7割の人が取得できた理由にあげているのも「職場が取得しやすい雰囲気だったから」です。
この結果からも、休暇が取れるかどうかは職場の雰囲気によって決まると言えそうですし、小泉氏も育休を取れたのは環境省の協力が後押ししたと語っています。
出典 東京都 男性の家事・育児参画状況実態調査
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/02.pdf
安心して相談ができる風土づくりを
では、休暇がが取りやすい職場とはどのような職場でしょうか?
私は、ふだんの人間関係がしっかりとできている、つまりお互いに相手の事情を察し、困ったときはお互いに協力しあえる職場だと考えています。上司や職場のメンバーが「仕事のことは心配しなくていいから」と言ってあげられ、休みを取る人も自分の仕事をカバーしてくれる職場に感謝できるような職場です。
「そんな職場なんて理想にすぎませんよ。休暇を認めてあげたいと思っても、うちみたいにギリギリの人数でやっていたらそんな余裕はないんですよ」という声が聞こえてきそうですね。
確かにその通りかもしれません。
でも、まったく無理なのでしょうか? 何か一つくらいできそうなことはないでしょうか?
頭から「うちの会社には無理だ!」と決めつける前に、一度その人を含めた職場のメンバーが、毎日どんな仕事をどれくらいの時間をかけてやっているかを調べてみませんか? 一つ一つの仕事にどれくらい時間をかけているかは、意外と本人にもわかっていないことが多く、書き出してみると、この時間何やってたっけ? と思うこともあったりするのです。
誰かの育児休暇や介護休暇がきっかけで、職場の業務を一つ一つ見ていくと、昔の名残で今は必要ない作業が残っていたり、同じような書類を複数の人が作っている、なんていうことがあるかもしれません。多少時間はかかるかもしれませんが、業務を一つ一つ丁寧に見直すことで、全体の業務の流れがすっきりして、生産性があがることはよくあります。
見直しをした業務一つ一つについておおよその所要時間を含めた簡単なマニュアルを作っておくと、他の人に頼みやすくなります。何より、マニュアルを作る過程で意見を交わすことで、お互いにどんな仕事しているかや、相手の大変さがわかったりして、職場の人間関係がよくなるのです。
お互いの仕事や価値観を知って、気軽に相談したり、助け合える関係ができれば、 職場全体の能力も生産性も上がってきます。
今は、子どもがいない社員でも、いつ介護が発生するかもしれませんし、本人が病気になるかもしれません。社内で定期的にファミリーイベントなどをやって、家族ぐるみの付き合いが生まれることで、誰かの子供が病気の時には「お互い様だから早く帰って」、と言えるような雰囲気を作っていく、なんていうのも良さそうですね。
皆で支え合い、自然に助けあえる職場へ
育児を経験すると、その人の仕事の段取り力は上がります。毎日保育園へのお迎えというデッドラインがあり、子どもはいつ体調を崩すかわからないので、不測の事態を見越して常に仕事は前倒しになり、結果的に生産性を高めることになります。
私が育児をしたときには、私も夫も地方出身者だったため、頼れる人たちには全て頼りましたし、遠方介護も経験したことがあります。いろいろな人に協力して貰ったことで、必然的に私の仕事の段取り力やコミュニケーション力も上がり、助けてくれた職場へは感謝の気持ちが芽生え、仕事にもプラスになりました。
私の顧問先の会社では、男性社員が育休の間、メンバーが彼の仕事をした事で一人一人のスキルも上がり、チームワークが良くなった例もあります。
子育てをしながら短時間勤務をした時に、仕事のやり方を工夫した結果、結局フルタイムで働いていた時と同じだけの成果をあげたという人もいます。このように、短時間勤務になったのをきっかけに、いろいろと工夫して生産性をあげて成果を出す人も少なからずいるのです。
社員にとっては仕事と育児の両立は大変ですので、職場のサポートがあれば安心です。中でも上司の役割は特に重要です。
休職した社員が復帰した後は、業務・体調・育児の面などで、気になることは話し合い、「あなたはこの職場に必要だ」と伝えてキャリアを支える事も重要です。また、休んだ社員の穴を埋めて急場をサポートした社員がいれば、上司はその人を評価することも忘れないようにしましょう。このように考えると上司の精神的な支援が会社の未来を作るといっても過言ではありません。
多様性がもたらす混乱や葛藤はチームを強化させる
育児をしながら短時間勤務を選択する社員、キャリアを優先し子どもが0歳の時に職場復帰する社員、定年を超えて短時間で働くシニア嘱託社員、テレワークが進んだ職場など、今後は働き方がさらに多様化すると考えられます。
多様性が高い職場は成果が出せないのでしょうか? そんな事はないはずです。むしろイノベーションが起きる可能性を秘めています。
社員の価値観や強みはそれぞれですが、皆会社や社会に貢献したい、成長したいと思っています。仕事も育児も当たり前に行える職場をどう作るか、そのために上司・同僚・経営・人事は何ができるのか?
経営者の価値観を押し付けるだけでなく、時にはぶつかる事を恐れず、社員にも本音で意見を言ってもらい、それをきちんと聴く。どういう施策をとっていくかは会社ごとに異なり、正解は1つではありません。法改正の今だからこそ、これをチャンスととらえ、会社の理想の姿を労使で一緒に考え、それを進化させて育てていこうとする。そういう会社を私たちは応援します。
今回の育児介護休業法の現状と改正ポイント
参考までに、今回の法改正の内容と、活用できる施策について以下にまとめます。
現状の育児介護休業法
〈育児の両立支援制度〉
【子育て中の男女労働者(雇用期間定め有の場合は一定の者)】
- 育児休業
1歳未満の子ども1人につき1回。保育園に入所できない場合2歳迄
※パパママ育休制度利用の場合は1歳2ヵ月まで - 短時間勤務制度(1日の勤務時間を短縮)、所定外労働の制限(残業免除)
子どもが3歳まで利用可能 - 子の看護休暇(1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで取得)
小学校入学前の子どもがいる労働者が対象
時間外労働の制限(1ヵ月24時間、1年で150時間まで)
深夜業の制限(免除)
〈介護の両立支援〉
【要介護状態の対象家族を介護する男女労働者(雇用期間定め有の場合一定の者)】
- 介護休業
対象家族1人につき3回まで。通算93日まで休業可能。
※対象家族は高齢の親だけでなく子で使える場合もあります。 - 介護休暇(対象家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで)
- 短時間勤務等の措置
短時間勤務制度・フレックスタイム制度・時差出勤の制度・介護費用の助成措置の、いずれか1つ以上の制度を設けること
利用開始日から3年以上の期間。2回以上取得可能。 - 所定外労働の制限(残業免除)、時間外労働の制限、深夜業の制限
要介護状態にある対象家族の介護をする労働者が対象
〈その他〉
育児休業・介護休業等を申出・取得した事を理由とする不利益な取り扱いを禁止
マタハラ・パタハラ・ケアハラ防止策を義務付け
〈マタハラに該当する事例(判例より抜粋)〉
不公平感がないよう、十分な理解と周知、説明が必要です。
- 賞与の出勤要件について、産前産後休業・育児休業の日数、勤務時間短縮時間分を欠勤扱いとする事は、法律が権利を保障した趣旨を実質的に失わせる場合、無効
(出勤率に影響させてはならないが、賞与の算定額には影響させて良い。) - 妊娠中の軽易業務への転換に伴う降格は、原則禁止
(適切な説明を受けて十分に理解し承諾した場合などは総合的に判断) - 3ヵ月以上の育児休業を取得した労働者に翌年度の昇給を行わなかった事は、無視できない経済的不利益を与え、育児休業の取得を抑制するものであるから無効
令和3年1月1日からの改正のポイント
子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになりました。
出典:厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
時間単位の取得について、いくつか注意すべきポイントがあります。
- 所定労働時間が8時間や7時間の場合は分かりやすいのですが、7時間30分や7時間45分のように分単位の端数がある場合には、端数を切り上げて管理しなければなりません。7時間30分であれば8時間分として1時間単位を8回取得できるようにする必要があります。
- 休んだ時間分の賃金を控除する場合、休んだ時間を超えて控除してはいけません。休暇の時間残数の減り方と欠勤控除の時間数が異なる場合があります。
例)7時間半が所定労働時間の会社で7時間労働し、30分の休暇を取得した
⇨ 休暇は切り上げ1時間、ただし欠勤控除は30分(1時間ではない)
残数は4日と7時間
欠勤控除時間数と休暇残時間数を分けて管理しないといけない複雑さがある為、勤怠システムの変更は、早めに着手する事をおすすめします。
- 時間短縮制度利用などで、所定労働時間が年度の途中で変更になった場合、日単位に満たない時間数については、所定労働時間数の変動に比例して変更されます。
例)介護休暇が3日と3時間残っている労働者について、1日の所定労働時間数が8時間 から5時間に変更された場合
⇒【変更前】3日(8時間で「1日分」)と3時間
【変更後】3日(5時間で「1日分」)と2時間 ※3時間に5/8日を乗じて比例変更すると、1.875 時間となるが、1時間未満の端 数は切り上げるので2時間)
- 最低単位時間を1時間超(たとえば2時間)とすることはできません。
詳細ご参考 厚生労働省 Q&A
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000582061.pdf
初めての妊娠は社員にとって不安なものです。会社がサポート出来る事について、面談シートや手引きなどを利用して、社員に分かりやすく説明しましょう。
①妊娠報告を受けたら、休業前までの働き方について話し合いましょう。
(出産予定日・体調面の配慮・引継ぎスケジュール・産前産後休業・育休予定・休業中の所得補償が申請や請求に基づき行われる事など)
②休業の2か月前になったら、休業中や復帰後について話し合いましょう。
(休業中の連絡先・休業中の賃金等・復帰後の就業イメージ・その他相談)
③休業終了予定の1~2か月前になったら、今後の働き方について話し合いましょう。(復帰予定日・保育予定者・保育園利用予定状況・慣らし保育や勤務時間希望・残業の配慮・有給・業務量や役割の要望等)
活用できる助成金、認定制度など
- 両立支援助成金
https://www.mhlw.go.jp/content/000696083.pdf
- 東京都 働くパパママ育休取得応援事業 (法を上回る制度を策定した場合など)
https://www.shigotozaidan.or.jp/koyo-kankyo/joseikin/papamamaikukyusyutoku.html
- 育児、介護、女性支援等の認定制度
「くるみん」「プラチナくるみん」(子育てサポート認定企業)
「トモニン」(仕事と介護の両立支援)
「エルボシ」「プラチナエルボシ」(女性活躍推進認定企業)
このような認定制度を積極的に利用して、社外にもアピールしましょう