業績と時短を両立させる最強のチームビルディング式働き方改革

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COLUMNコラム

2021.01.18

同一労働同一賃金の落とし穴

同一労働同一賃金のゴールは、結局、評価制度の見直しなんじゃないか。

これは、この「最強のチームビルディング式働き方改革」の仲間と話しているときに出てきた言葉です。

確かにそうかもしれない、と思えるほど、評価制度(賃金制度含む)の広告が目につきます。

じゃあ、同一労働同一賃金対策は、評価制度の見直しをすればOKかというと、そうはいきません。

 

2020年10月13日、15日に正規、非正規の労働条件の格差をめぐって最高裁判決が出ました。こうすれば、対応できているというお墨付きが与えられる、見本が示されたかと言えばそうではありませんでした。

 

 

同一労働同一賃金の概要

同一労働同一賃金は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パートタイム・有期雇用労働法」)を根拠としています。

 

法改正のポイントは、次の3つです。

出典:「パートタイム・有期雇用労働法が施行されます」(厚生労働省リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/000471837.pdf

同一労働同一賃金の導入は、

正規と非正規の違いを、呼称や契約期間が違うから待遇も違うのは当然だ、といまだに誤解している会社に対して、

 

「どうして賞与がでないのですか」とパート社員から聞かれた時に

「パートだからじゃないか」は、通用しません!ということ突き付けています。

 

この法律の目指すゴールは、厚生労働省ホームページから引用すると次のようになります。

出典:「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」【省令・指針反映版】(厚生労働省リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/000536884.pdf

 

ここに出てくる「納得」とは、何を誰に納得してもらうのでしょうか。

最高裁の判決でもポイントとなったのが以下の点です。

 

  • 職務内容(a業務内容 b責任の程度)
  • 配置の変更内容(転勤・昇進など将来の人材活用の仕組み)
  • その他の事情

 

この点に差がないと納得してもらえるように、制度を整えることが求められています。

私たちのコラムでもこの点について以前に取り上げています。

https://saikyo-hatarakikata.com/column/154/

 

 

では、実際の企業での現在の取り組み状況はどうなのでしょうか?

私が関与しているお客様の場合は、

どのような仕事を、正規、非正規のそれぞれが行っていて、

どういう待遇の違いがあるのかを洗い出して整理する。

 

ここまでは、自分たちで対応できています。

 

しかし、その待遇差が妥当なのかどうか、どのように待遇差を見直せばよいかに、苦労しているという状況です。

 

最高裁判決が、あくまで「個別具体的案件ごとに判断した結果である」と述べていることからも、待遇が不利益かどうかを判断する難しさがわかります。

 

不利益取扱いについての禁止は、今回あらたに定められたものですがパート労働者については入社時などに賃金や教育訓練などについて説明する義務や、待遇決定に際して考慮したことを説明する義務は以前からありました。

 

今回、対象者が非正規労働者全体に広がり、待遇差の内容や理由についてまで、「説明義務」が課されることになりました。

大企業などでは、これまでの経験から、これらの説明を書面化することはできるでしょうし、待遇差を見直すために、賃金制度部分を作り直して手当の改廃を行うこともあるでしょう。

しかし、ここで止まっては不十分です。これでOKではありません。
これだけではまだルールを作っただけにすぎません。

 

難しいのはそのルールに対して、非正規労働者の納得が得られるかどうかであり、納得がいかなければ、企業は訴えられる可能性があります。

 

つまり、ルールを作ることと説明できることは別ものであり、この2つはセットで考える必要があるのです。

 

説明のポイントは次の2点で、求められたときに対応できるようにしておかなければなりません。

 

  1. 対象となる短時間・有期雇用労働者と「職務の内容」が最も近い正社員を選んで比較する
  2. 待遇差の内容と理由を整備して説明する

 

この2点について、就業規則、賃金規程、通常の労働者の待遇の内容を記載した雇用契約書などの資料を活用して口頭で説明することが基本です。

 

あくまで書面は資料という位置づけですから、規程を作っただけでは説明したことにはなりません。

 

それ以外でも説明しなければならない事項について、下図のような文書を別に作成して、それを手渡すことでも差し支えありません。

 

厚生労働省「説明書モデル様式」

113268_08-共通版.indd (mhlw.go.jp)

 

 

 

社員の納得のその先にめざすもの

 

最高裁判決によって、大筋の方向性は見えましたが、これからも個々の事案ごとに待遇差が判断されることに変わりません。

職務との関連性が乏しい手当については、生活保障を目的とみなされるものは、待遇差が不合理と認められる傾向があり、今後多くの会社が手当を見直すものと考えます。

 

しかし、仕組みを変え、待遇差を解消したと会社が説明しても、非正規社員が納得しなければ、対応したとは言い切れないし、紛争になれば、不合理と判断されるリスクが残ります。

 

これって、どこまで行ってもきりがありません。

ルールを作っても社員の納得には結びつかないからです。

 

どうして納得が必要なのでしょうか。

 

同一労働同一賃金は働き方改革を実現するひとつの手段ですが、働き方改革の大きな目的は生産性の向上です。

 

同一労働同一賃金を機に、賃金が上がる仕組みを非正規労働者にも導入して、非正規社員の実力を向上させることで、会社全体の生産性向上をはかる、という視点です。

 

社員が安心して自分の生活様式にあった働き方ができるようになれば、労働人口は増えます。正規か非正規かを選ぶのでなく、多様な働き方を自由に選択できるように処遇を改善した結果が、たまたま正規、非正規という呼称にすぎない、という考え方へ、会社は転換を求められています。

 

同一労働同一賃金は、法律で決められたことですから、守る以外に方法はありません。

 

法律で決められたから仕方なく、人件費が増える道を選ぶのか

あるいは同一労働同一賃金をチャンスとして、人件費が上がる分の粗利を増やすために生産性向上に努めるのか

 

どちらを選択するかは、会社の判断ひとつです。

 

 

中小企業の場合、同一労働同一賃金とするためには、正規社員の処遇を下げるという選択も必要になるかもしれません。

その場合には非正規だけでなく、正規社員の納得も必要になります。

 

処遇を下げるとは、賃金体系を社員に不利益に変更することです。

実質的には賃金を下げるわけですから、社員も簡単には納得してくれません。

 

同じように社員の待遇の不利益な変更で、私が以前対応したのが、2012年に行われたの適格年金の廃止です。

その年、多くの企業が契約していた適格年金が廃止になり、退職金の積み立て不足が明らかとなり、退職金の給付水準を下げなければならない状況に多くの会社が追い込まれました。当時、社員の皆さんに納得して、受け入れてもらうことに苦慮しました。

 

そのとき行ったことは、

 

  • 建設的な話し合いをするために、どこまでの不合理を解消できて、何が未解消なのか等の現状の取り組み状況(情報)を共有する
  • 不利益変更を取らざるを得ないなかで、社員の意向をくみ取って、代替となるものを反映できるか一緒に検討する

 

100%の対応ではないかもしれないけれど、労使で現状を共有することで、互いの立場を理解して、納得してもらったことがあります。

 

 

同一労働同一賃金に対応することで、生産性の向上をめざしましょう

今回の「パートタイム・有期雇用労働法」においても、第9条で通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いを禁止していることを重く受け止めたうえで、非正規社員の実態を調べ、不合理な処遇の是正に取り組む方法として、賃金の見直し以外にも、次のようなことも検討していきましょう。

 

たとえば、最高裁判決でも賞与や退職金の判断において、一定の評価を得た「正社員登用制度」の活用です。

単に制度として持っている、だけでなく、実際に登用しているという実績を積み上げていくことが非正規社員との話し合いの場でも評価されます。

 

働き方改革が進める多様な働き方の一環として、優秀な非正規社員を正社員とすることで、社員の定着度がUPすれば、生産性の向上にもつながります。

 

 

同一労働同一賃金については、法律の施行(中小企業は2021年4月)という期限が決まっていることを考えれば、不合理な格差を解消して、社員の納得を得ることを、急がなければなりません。

 

同一労働同一賃金は、「働き方改革」の実現のためのひとつの手段です。

この機会を活かして生産性の高い職場にするには、少し長い時間軸をとって対応することにはなりますが、正規、非正規という区分に関係なく、社員一人一人が自分の強みを活かして、それが評価される組織づくりをすることに同時に取り組んでいくことです。

 

是正すべき格差は是正しながら、役割の差による役割の差を受け入れる組織づくりを同時に進めることで、「働き方改革」の目的である生産性の向上を実現することができます。

 

鈴木 早苗

鈴木 早苗

社会保険労務士・キャリアコンサルタント

担当地域:全国

大手スーパー、大手エステサロン、大手テレマーケティング会社のほか、不動産業、物流業など様々な業界での経験があり、トップ層から現場までの労務問題を体験。この経験を活かして社会保険労務士として15年間、一貫して労務問題の対応と人事制度づくりに取り組む。労務相談の解決件数は1000件以上。

鈴木 早苗が書いた記事