「赤ちゃんできたんだって?おめでとう!! でも残念だなあ。いつ会社辞めるの?」
とか
「妊婦さんがいると、職場のみんなにしわよせがいくから、みんな大変になるんだよ。君が休んでいると代わりの人の補充もできないから、できれば辞めて欲しいんだよね」
などなど、ベテラン社員が何気なく口にした一言。
今の時代、こんな例は極端かもしれません。でも、もし、「なんでこれが悪いの?」なんて思っている方がいたら要注意です。こういう発言はマタハラとみなされる可能性が高いのです。
2020年6月1日からいわゆる「パワハラ防止法」が施行され、事業主には非正規雇用を含むを含む全ての労働者に対して「ハラスメント全般に対する防止の措置を講じること」が義務付けられました。
本コラムでは、その中でも特に「マタハラ」に関して、会社や上司にとって必要な考え方や対策を紹介します。
「マタハラ」は、セクハラと同じくらい頻発している!?
「マタハラ」とは、「マタニティー・ハラスメント(マタニティハラスメント)」の略で、妊娠している、もしくは出産後の女性社員に対する嫌がらせのことです。肉体的な嫌がらせだけではなく、精神的な嫌がらせ・いじめなども該当します。
「平成28年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」によると、平成28年度に、雇用環境・均等部(室)に寄せられた男女雇用機会均等法に関する相談は、21,050件。そのうちの7,344件(34.9%)がマタハラに関する相談であったと言います。これは、セクシュアルハラスメントに関する相談とほぼ同数です。マタハラは、セクハラやパワハラに並ぶほど、働く女性を悩ませるハラスメントになっています。
出典平成28年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000167773.pdf
マタハラという、言葉は、NPO法人マタハラNet~マタニティハラスメント対策ネットワーク~創設者の小酒部さやかさんが、2015年にアメリカの「国際勇気ある女性賞」を日本人で初めて受賞した頃から注目され始めました。マタハラという言葉が社会に定着し始めると、「私が受けたのは、マタハラだったのかも」と感じる女性も多く現れ、日本の企業の現状が炙り出されました。
最近は「パタハラ」も増加しています
マタハラと共に近年話題に上がるのが、男性に対する同種のハラスメントである「パタハラ」です。近年、男性の育児休業も話題になる一方で、産休や育休を取ることができない、取得する際に会社や上司から文句を言われる、子育てのために早帰りすることに嫌味を言われる、育児や育児休業を取得したことを理由に減給や退職を示唆される、等の事例が聞かれます。
2019年に日本労働組合総連合会が実施した調査(男性の家事・育児参加に関する実態調査/同居している子どもがいる全国の25歳~49歳の有職男性1,000名の集計)では、育休取得者の20.8%が「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)を受けた経験あり」と答えています。
出典:2019年男性の家事・育児参加に関する実態調査
https://www.atpress.ne.jp/releases/195661/att_195661_1.pdf
「男性・女性問わず、仕事と育児を両立したい」と考える人が増加する一方で、まだまだ職場や上司に理解されずに苦しんでいる人が多いことがわかります。
マタハラ、パタハラを行うのは男性の上司だけではありません。育休をとった社員の仕事のしわ寄せが行く職場の同僚や、「私のころは制度も整ってなくて大変だったのに」というベテランの女性など、女性からうけるマタハラも実は男性以上に多いのです。
働き方の多様化に伴い、世代間による意識のズレ、個人個人の価値観の違いによる考え方の違いなどが、マタハラ、パタハラを起こしていると考えられます。
「生き方」「働き方」の多様化を理解することから始めましょう
人材会社エン・ジャパンの調査によると調査数575名のうち、87%の女性が「結婚・出産後も働きたい」と考えており、「家庭に入りたい」の7%、「結婚は考えていない」の2%と比べると圧倒的に多いことが分かります。
働きたいと思っている女性のうち、31%が「結婚・出産後は少しペースを落として働くが、子どもの手が離れたら以前と同様に働く」ことを希望。「結婚・出産後は少しペースを落として働く」(24%)、「結婚・出産を機に一度は仕事を辞めるが、子どもの手が離れたらまた働く」(22%)などの声もありますし、 「結婚・出産にかかわらず、今と変わらず働く」(10%)という層も存在します。働きたいと思っている女性の中でも、出産後の働き方についてはいろいろな考えがあることがわかります。
出典:エンウィメンズワーク ユーザーアンケート(n=575) 2019年
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/16249.html
1980年代までは、妊娠・出産等で女性は会社を辞め、その後は育児に専念することが当たり前と思われていたので、年配の上司の中には、自分の経験から良かれと思って妊娠した部下に退職を勧めたり、仕事を減らしたりしている方もいるかもしれません。しかし、今の女性は、「結婚・出産後も働きたい」方が多く、希望する働き方も人それぞれです。
お互いの理解は、対話から始まります
では、個人の「生き方」や「働き方」が多様化している今の時代、どうすればいいのでしょうか?
私がおすすめしているのは、定期的に上司と部下で対話の場を持ち、一人一人の希望を理解することです。そういう話をすると、こんなことを言う方がいらっしゃいます。
「面談?また業務が増えるの???」
それはそうですよね。働き方改革で、 残業するなと言われているのに、 余分な仕事を増やしてくれるな、というのはよく分かります。
また、こんな方もいらっしゃいます。
「うちはふだんから部下とよく話をしているし、大丈夫ですよ」
でもちょっと待って下さい。例えば、部下がどんなこと思って働いているか、どんな生き方や働き方を希望しているか、実際に聞いてみたことはあるでしょうか? 部下の方は本当に「うちの上司とは、よく話をしているし、いろんな相談にものってもらえる」と思っているのでしょうか? 意外と、「将来のキャリアについて相談したいけど、部長、いつも忙しそうだから言えないわ」と思われているかもしれません。
私がここでいう「対話」とは、単に話をすることではなく、自分の考えや価値観にはこだわらずに、いったん相手の考えや価値観を積極的に取り入れることを言います。なぜ対話が大事なのかというと、自分と相手の価値観が違うからです。そんなことは当たり前だと思われるかもしれません。しかし、人は無意識に自分の経験や思い込みをもとに他人の行動を判断しがちです。
自分の経験や思い込みだけで部下のマネージメントを続けると、いきなり部下にやめられてしまったり、気づかずにマタハラになっていた、などというリスクにも繋がりかねません。自分の経験や心遣いが、逆に本人の負担になっていないか考えてみることが大事です。
マタハラ防止の第一歩としては、まず、部下がどんな生き方や働き方をしたいと思っているのか、聞いてみることからはじめてみましょう。お互いの考え方を理解した上で、それぞれの望む姿のギャップを見極め、話し合いで解決していくのです。
子供を生み育てることは、少子化が進む日本の将来のことを考えても、とても大事なことです。せっかく育った社員がマタハラで辞めることは、優秀な社員がいなくなる、職場の雰囲気が悪化する、会社のイメージダウンなど、会社にとって大きな痛手となります。逆に社員が望む「生き方」や「働き方」を叶えることで、優秀な社員にこの職場で働き続けたいと思ってもらえたら、職場にとっても良い効果が期待できます。
自分と他人の違いを知り、お互いの思いや考えを理解し、意見を素直に言い合える場を作る。そんな職場づくりを私たちは応援します。