現在の市場環境に対応出来るように組織変革を、と考える経営者の方々も多いのではないでしょうか。
グローバル化が進み、技術革新や市場変化のスピードもアップしている現代において、硬直化した組織では生き残ることは難しくなっているでしょう。
しかし、従来行ってきたような組織図の変更や人員配置の見直しだけでは有効な組織変革とは言えず、組織の器を変更しただけであり変革としては不十分です。
では、どのようにすればよいのでしょうか?
組織変革のメリットとデメリット
組織変革には次のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- 業務フローの改善による効率化
- システムの整備による不満の解消
- 生産性の向上
など
デメリット
- 変化に対しての反発
- 利害関係の対立
- 新制度の運用が進まない
など
これらの事前に起こりうるメリットとデメリットを想定しておけば、組織変革を進める際のトラブル対応も可能となり、効果を最大化することも可能でしょう。
バーナードの組織論
組織の問題を考えるさいに、個人にたいしても注意を向けているでしょうか?
アメリカの経営学者チェスター・バーナードは、組織成立の成立要件として、
- 共通目的
- 貢献意欲
- コミュニケーション
の3つを挙げており、どれか一つが欠けても組織不全になると定義しています。
逆に言えば、この3つを見直すことで、組織としての土台を整えることが可能になります。
私が前職で店長をしていましたが、その時は、バーナードの組織論を知ることなく組織運営に取り組みはじめました。後で知って、もっと早く学んでいればと後悔することとなりましたが、今では失敗も組織運営を学ぶためには必要な経験だったと思っています。
このコラムでは、今までの私の経験を踏まえながら、3つの要件について考えてみます。
共通目的
組織が目標を達成するうえで重要なのが、組織と従業員の共通の目的であり、それを軸にしてすべての行動や判断の根拠となるのがその目的です。
目的には協働的側面と主観的側面があります。
協働的側面とは、企業理念や個人が持っている情報を共有し、協働して達成することです。
主観的側面は、家族のため、社会とつながりたいという、ひとりの人間としての目的のことです。
バーナードは、人は命令や権威によって動いているのではなく、それらを一人一人が受け入れるからこそ、上司からの指示が部下に伝わり、組織が成り立つと捉えました。
私の前職の会社では、『イズム』という経営理念や社訓、ビジョンをまとめたものがあり、朝礼で唱和することにより、社員が同じ方向を向いていくように取り組んでいました。
『イズム』は日々の業務の判断基準であり、迷ったときは立ち返る大切なものであり、私も従業員に『イズム』の実現を考えるように伝えていました。
このように『イズム』を軸にして物事を考えていくことは、協働的側面です。
従業員全員が高いレベルで組織の目的を理解することは難しいことですが、一人ひとりの理解を深める方法はあります。
私が入社した時は『イズム』はすでに策定されていました。入社当時は私の理解も浅く、朝礼での唱和も口パクでした。今考えると本当にダメな従業員でした。それでも日々唱和し、実際に働いているうちに、徐々に理解できるようになりました。
その後、会社の従業員が増えたために、『イズム』を見直す全社プロジェクトがありました。当然私も参画しましたが、実際に参画することで『イズム』が自分ごととして理解できるようになり、達成意識も強まったのです。
私の例で明らかなように、従業員の理解を深めるための一番の方法は、目的の策定に参加させることですが、そうはいかない場合も多いはずです。
実際に日々取り組むことで徐々に理解もしてくると思いますが、私のいた店舗では『イズム』について考えるミーティングを行い、目的についてみんなで考え、取り組んだ行動などを共有することで、従業員の理解向上に繋げることができました。
主観的側面は、まずは、家族との生活です。働いて給料をもらって生活することは重要な事ですし、親を安心させることにも繋がっていたとも思います。
協働的側面と主観的側面の重なるところを見つけることは重要で、「会社のために働く」だけではいつか息切れします。「会社で働くことで、会社も自分もハッピーになれる」と考えられるようになれば、自然と意識は高くなります。
貢献意欲
貢献意欲とは、一言で言えばモチベーションです。従業員のモチベーションを向上させるには動機付け要因が必要です。
前回のコラムにて、【ハーズバーグの二要因理論】について軽く触れました。
衛生要因とは、従業員の不満をもたらすものであり、改善することにより不満防止となります。「給与」「福利厚生」「経営方針・管理体制」「同僚との人間関係」「監督(上司との関係など)」といった、仕事の不満に関わる要素です。
動機付け要因とは、仕事の満足度に関わる要素です。「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進・向上」といった、やりがいにつながる要素です。しかし、昇進や昇給といった外発的な動機づけは、一時的な効果だけで長続きしないといわれています。
私の経験から言えることは、従業員のモチベーションを維持するには、少し頑張れば達成できる目標を設定し、成功体験を増やすことです。従業員が自信をつけることで、自分の役割を認識し行動する習慣を身につけるようになります。
権限移譲により職務充実を図る、新しい知識やスキルを身に付けることにより職務拡大を図る、ということも必要であり、人材育成とは切っても切れないものであると思います。
実際に店長として店舗を管理していて、少し頼りないと感じる従業員に仕事を任せるのは不安です。二度手間になるかも、と考えてしまうこともありました。
そんな時でも、リスクの低い仕事から任せていきました。そうすることで、少しずつ経験と自信をつけていくことで行動も言葉も変わり、成長していく従業員姿を見るのは非常にうれしいものでした。
この時は、私から直接本人に業務内容やゴールだけではなく、本人への期待などを伝えました。また、途中での経過確認も振り返りも定期的に行いました。
別の従業員に対して、ある業務を任せることを私の口から直接伝えた時、その従業員の表情がすごく嬉しそうでした。そこまで重要な業務でもなかったので、私には意外だったのですが、店長から直接伝えられたことが嬉しかったようでした。
それまで業務を依頼する時には、社内のビジネスチャットを使って文章で伝えることも多かったのですが、この時初めてこういうこともリーダーとしての役割なのだ、と認識したのです。
コミュニケーション
コミュニケーションとは、従業員同士で情報を共有し、意思の疎通を図ることです。コミュニケーションとれていない組織は、トラブルが発生しても発見が遅く、迅速に対応することができません。そのため、二次トラブルなどで問題がますます大きくなる可能性があります。
また、コミュニケーション不足の職場は、従業員も働きづらく、業務を効率的に進めにくくなり、結果、生産性低下や離職率アップという事態を招くことにもなりかねません。
生産性の高いチームには次のような2つの共通点があります。
- 均等な発言の機会がある(チームメンバーひとりひとりが同じ発言量である)
- 社会的感受性が高い(自身の発言の影響を理解し、相手の感情を読み取ることができる)
このチームの中でなら自分の意見を笑われない、拒絶されない、罰されたりしないという心理的安全性がチームの生産性を高めます。
逆に心理的安全性が低いチームでは
- 無知だと思われる不安
- 無能だと思われる不安
- 邪魔だと思われる不安
- ネガティブだと思われる不安
といった不安が現れます。
従業員がこれらの不安を持っていることで
- ミスや不正行為があったことを隠そうとする
- 重大なリスクがあることがわかっていても、非難を恐れて何も言わない
ような行動に出てしまいます。
心理的安全性の欠如により、不正行為があったことを率直に話す風土がないことが原因です。
私は店長時代には、悪い情報ほど早く言って欲しい」と従業員に口酸っぱく伝えていました。良いことは報告が遅れても特に問題は発生しませんが、悪いことやトラブルの報告が遅れると、二次トラブルが発生し、問題が大きくなることも考えられます。
とはいえ、従業員も人間ですので、自分のミスを上司に伝えるのにも勇気が必要です。
こんな時に、スピーディーな情報共有に必要なのは、やはり信頼関係だと言えます。
手順やルールを守らない、認識や意識が低い、などの悪い失敗に関しては当然叱ります。しかし、感情的に罵るのではなく、事実に目を向け、原因を追究し、今後の対策を考えることが必要です。その後は本人にできる行動を促し、それ以上は私が責任を取る、ということにしていました。
私自身がここまで意識できるようになったのは、店長としての経験をある程度重ねてからで、元々は怒りっぽく感情的になることが多く、家に帰ってから言い過ぎたと後悔し、そんな自分が嫌になることもありました。それがきっかけでアンガーマネジメントを学んだことが、コミュニケーションの改善につながりました。
組織改革は、まず個人に向き合うことから
組織変革を考える時には組織として何を達成したいのか? をを明確にしておくことが必要です。
また、リーダーの道徳観は組織の存続に関わるほど重要であり、リーダーが道徳観を失えば組織も崩壊するのではないでしょうか。
決して難しく考える必要はありません。組織が個人の集合体でであることを考えると、組織を変革するにも、組織図や制度などを変える前に、まずは土台である個人に向き合うことを考えて頂きたいと思います。
変えた制度を運用するのも個人です。組織改革で個人に向き合うことは、決して遠回りではなく、むしろ近道なのです。