ビジョンを描いたチームや人が輝くスポーツの世界
大谷選手のビジョン
大谷翔平選手の躍進が止まりません。野球に詳しくない私でも、二刀流で野球界の常識を覆した事や、高校生の頃からマンダラチャートを作って目標を着実に達成した事を知っています。身体的に恵まれた事や、指導者にも恵まれたはずですが、小さい頃から将来の「ビジョン」を描き、強い意志で自らの進む道を「選択」し、これまで着実に歩んできた姿は、日本人の誇りとも言えます。
パラリンピックの男子車椅子バスケチームが描いたビジョン
2020TOKYOオリンピック・パラリンピックが終わりました。
最終日、私は男子車椅子バスケットボールの決勝戦に魅了されました。準決勝も逆転勝利でしたが、この試合も大激戦。逆転に次ぐ逆転、一瞬は金メダルも見えたその試合で、選手達は死闘を尽くし、わずかながら連覇の王者アメリカに及びませんでしたが、銀メダルを獲得しました。通常のバスケットボールとそれほどルールは違わず、激突や転倒も激しく、最後の最後、ファール戦略の選択など1秒1点を争う展開に、胸の高鳴りはメダル授賞式までしばらく止まりませんでした。
その後のインタビュー、豊島主将の話で印象に残った言葉が2つあります。
まず1つ目。「このチームの目標はメダル獲得だった(リオでは9位)」
そして2つ目。「通常なら4年周期だが、コロナで今回は5年あり、この1年でレベルアップできた。本当にこのチームにはプラスになった1年間、5年間だったと思う」
1つ目は、大谷選手同様、やはりビジョンの大切さを思いました。前回のリオデジャネイロパラリンピックでは悔しい結果に終わったからこそ、明確な目標を描けたのだと思います。
しかしながら、正直なところ2つ目は驚きました。今回のオリンピック・パラリンピックは、コロナ禍で緊急事態宣言下での無観客試合など、異例の開催。呪われたオリンピックとまで言われ、世界中の誰もが経験した事がない状況でした。1年間の延期だけでなく、開催出来るかどうかはギリギリまで危ぶまれ、選手にとって経験した事がないほど困難なストレス状況も多かった事が想像出来ます。
つまり、どんなに明快なビジョンを描いていても、周囲の環境は無常なほど、変わってしまう事があるという現実を、突きつけられました。他の種目の選手のインタビューなどからは、その苦しかった胸の内や調整の難しさを感じる発言が多くありました。日頃の練習のルーチンが崩れ、練習試合などの実践が積めず、正直投げ出したい気持ちになった日もあったはずです。
それでも、描いたビジョンを実現する為に、選手達は自分たちが信じる道を選択し続け、立ち止まる事はなかった。むしろ、「1年はプラスに働いた」との発言は圧巻でしたし、しなやかでした。結果論ではありません。本当は、身体的にも調整は難しかった部分もあったかもしれません。しかし、自信を持って競技に望んでいる姿に、私達も強く心を動かされたのではないでしょうか。
若きオリンピック選手たちの描いたビジョン
パラリンピックの選手同様、オリンピックで活躍した選手達も、それぞれのビジョンを描いていました。スケートボードで金メダルをとった堀込選手は小さい頃からアメリカでプロになる事を決めていましたし、サーフィンで活躍したアメリカ生まれの五十嵐選手は逆に、初めてオリンピック種目となったこの東京大会で、日本人として出場する事を選択しました。
お互いを尊敬し讃えあう姿や、自然や周囲の人達に深く感謝する姿は、新しいプロフェッショナルの姿を見せてもらった気がします。卓球の混合ダブルスで優勝した伊藤選手は、個人戦での打倒中国を胸に、既に次の世界選手権を見据えての挑戦が始まっています。
感染拡大が止まらない中、オリンピックは開催すべきではなかったのではないかという意見が今でもあります。経済効果や感染者数など、数値で測れる指標から見れば確かにそのような意見も真摯に受け止めなければなりません。しかし、数字では測れない感情を持つのが人間です。明日からまた頑張ろうという気持ちが、世界中の人の胸に少しでも芽生えたとしたら、それもまた経済効果と言えるのではないでしょうか。
実は私も、1日だけボランティア活動をする事が出来ました。決めたのは2年半ほど前ですが、このような状況の為、希望していた職種でも日数でもありませんでした。それでも、少しでも関われた事は自身の一生で考えると、本当に良かったです。当時から、所属する法人では、週休3日でボランティア休暇もありましたので、周囲の理解があったからこそ、自然に挑戦出来ました。
次回のパリ大会は3年後の2024年。また熱い戦いが繰り広げられることでしょう。今回活躍したそれぞれの選手たちは、今度はどんなビジョンを描き、達成に向かってどんな選択をしていくのでしょうか。
将来、働く環境はどうかわるのか? そのために企業はどう備えるのか?
「働き方の未来2035」が提言する未来の働き方
次のオリンピックが開かれるころには、私たちの働く環境はどのようになっているでしょうか? 今回、オリンピックで進むはずだったテレワークは、奇しくもコロナの感染拡大で昨年から劇的に進みました。オフィスを都心から地方に移したり、会社に行くのは月に1回、などという就業形態も珍しくなくなりました。今後コロナが収束しても、働き方がコロナ前に戻ることはないでしょう。
「働き方の未来2035 ~一人ひとりが輝くために~」 という報告書があります。国が描いた働き方改革の20年後の「ビジョン」と言えます。2016年、コロナの流行など全く想像出来ない今から5年前に提唱されたものです。
2035年には、個人が自分意思で働く場所と時間を選べるようになり、企業は、社員という形で人を抱え込むのではなく、プロジェクトごとに働く人が変わり、企業の内外を自在に移動する働き方が増えるだろう、と予想しています。
報告書が出てから5年がたちました。この間の技術の発達は目覚ましく、時代の変化のスピードは速さを増しています。少子高齢化は間違いなく進行しており、労働人口の減少も引き続き予想されています。オンライン研修やオンラインミーティングが日常的に行われるようになったことで、時間、空間の制約は一部なくなった感もあります。
afterコロナ、またはwithコロナの世界はどの様に変わっていくのでしょうか。ウィルスも形を変えて生き残りをかけていますが、私達も変わらなければなりません。
5年後の自分たちの未来の姿を考えてみませんか?
14年後の2035年は少し遠い未来ですが、働き方改革のロードマップが示したゴールは5年後の2026年ですので、まずは5年後で考えてみましょう。パリのオリンピックの少し後ですね。
この秋には大幅な最低賃金の改正が決定し、その他にも「中小企業の時間外労働60時間超の割増率の引き上げ」「社会保険の適用拡大」「男性育休の推進」など、人件費にも関わる法改正が次々と控えています。周囲の環境は益々変わっていきます。
そのような中、貴社が考える戦略はどのようなものでしょうか?
5年後は、どんな人に活躍してもらえる会社になっていますか?
5年後、働いている社員達は皆幸せそうですか?
お金も大切ですが、会社を支えるのは、5年後も人である事には変わりありません。大事な事は、貴社のありたい姿、すなわち「ビジョン」であり、そのビジョン実現のためにどのような選択をしていくのかです。
同時に、こういう人に働いてもらいたいと思う人に選択してもらえる会社であり続ける事ではないでしょうか。採用するときはもちろんのこと、今働いている社員にとって、この会社で働き続けたいと思ってもらえる会社でないと会社の未来は暗いです。
複業や副業など、周囲の環境が激変する中、働いている社員にとって魅力的な会社であり続けなかった場合、優秀な社員が退職や転職を選択する事もあり得ます。
そのために、どのような事ができるのか、または今やっていることで何かやめる事はあるのか、今少し立ち止まって考える事が必要ではないでしょうか。
是非5年後の貴社のありたい未来を私たちに教えて頂けると嬉しいです。
参考
○働き方の未来2035
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000133449.pdf