同一労働同一賃金を実現する目的は会社ごとに異なります。 法令順守だけを目的に取り組んだとしてもそれは一時しのぎに過ぎず、長期的に働き方改革を実現することにはなりません。
裁判になった時に負けない為の表面的な整備、例えばパート社員も活躍してほしいと思っているけれども、待遇差の説明は難しそうだから、短時間労働者は正社員の補助業務「のみ」をやってもらう事にしよう!と経営者が考えたとします。そんなことをしていて短時間労働者のモチベーションは上がるでしょうか?
パートであれ正社員であれ、仕事をしているのはロボットやAIではなく人です。人の問題は単に業務内容や賃金をいじれば済む話ではなく、会社全体のビジョンや経営戦略に関わることなのです。
同一労働同一賃金の判断基準と点検手順
現在、非正規と呼ばれる雇用形態の労働者は全体のうち約4割を占めます。正規と非正規の格差が広がる中、同一労働同一賃金の施策(賃金からのアプローチ)は政府のトップダウンで実行されました。
コロナ禍の状況下ではありますが、中小企業でも同一労働同一賃金の義務化が2021年4月に迫っています。
あらためて、同一労働同一賃金とはどのようなものでしょうか。ポイントは下記の通りです。
- 同じ会社で働く正社員と非正規社員との間で、あらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されます。
- 会社は、非正規社員から求めがあった場合は、正社員との待遇の違いや理由について説明をしなければなりません。
- 行政による紛争解決手続が整備され、「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても、「勧告」等の対象になります。
また雇用の不合理を決める3つの判断基準として下記があります。
- 職務内容(業務内容・責任の程度)
- 配置の変更内容(転勤・昇進など将来の人材活用の仕組み)
- その他の事情
これらが通常の労働者(正社員)と同じならば均等待遇、異なる場合は均衡待遇=差に応じたバランスを取りましょう。
ガイドラインでは「問題となる例」と「問題とならない例」のみが示されており、待遇差が不合理か否かは最終的には裁判にならないとわかりません。その為、企業として今やるべき事は、労使で不合理な待遇差について点検し、話し合うことです。特に、正社員の不利益変更が発生する可能性がある場合など、ここで丁寧に話し合いを尽くしておく事が、裁判沙汰を起こさず、その後もオープンな会社の風土を作る土台になると私たちは考えています。
最後に決めるのは経営者ですが、社員を巻き込んで考えていくことが重要です。
引用:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
形式的ではありますが、点検手順についても紹介しておきます。
- 非正規社員はどのような人達がいるか、職務内容や配置の変更範囲はどうか(有期契約社員・短時間労働者・・・均等待遇か、均衡待遇か)
- 1の分類ごとに個々の現状の整理・手当などの分析
- 違いがある場合は、説明できるか・理由は適切かを検証
- 基本給の要素(職能給)(成果給)(職務給)(勤続給)・賞与・昇給の仕組みを検証
- 福利厚生について検証
- 是正策を検証
2の事例)「通勤費」・・・通勤にかかった費用を補填(問題のない例)
「業務の内容」「責任の重さ」(「職務の内容」)や、転勤や異動の有無・範囲(「職務の内容・配置の変更の範囲」)は、支給の有無や支払いの仕方に関係なく支給
3の事例)「店長手当」(問題のない例)
正社員の店長は「店舗の規模別の一定の月額」、パートタイマーの店長は短時間勤務であるため、「同規模の店舗を担当する正社員の店長手当に、当月における、各人の月間所定労働時間を正社員の月間所定労働時間で除した比率を乗じた額」を支給
4の事例)企業の業績等への貢献に応じて支給している賞与について、通常の労働者には職務の内容や企業業績 等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。⇨⇨ 問題となる例 ⇨⇨是正が必要
5の事例)「慶弔休暇」 (問題とならない例)
週2日勤務の短時間労働者に対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振 替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与している。
「基本給」・・・正社員は職能給、管理職になると役職給部分が多くなり、非正規社員は職務給、というように比較する物差しが違うため、差の説明が難しいのが基本給です。そこで、正社員の時給単価を明確にした上で、仮に職務という同じ物差しで比べてみようというツールがあります(厚生労働省 職務分析職務評価導入支援サイト)。活用してみて下さい。
同一労働同一賃金を働き方改革につなげる
働き方改革は、貴社の”こういう会社でありたい”を実現するためのものです。短時間労働者・有期雇用労働者を貴社の人事戦略上、どのような位置付けとするのか、この手当を支給する目的や意図は何か。同一労働同一労働の問題を自社のビジョンや戦略を見直す機会と捉えてみて下さい。希望者や基準を満たした人は正社員に転換する仕組みを作っていく場合、人件費が増える可能性もあるため、原資の確保や規程の見直しも必要でしょう。
労働者も個々の事情に応じて、多様で柔軟な働き方を自分で選択したいと思っています。個々の事情、例えば育児などは、子どもの成長とともにバランスの比重が変わっていく場合もあります。私自身もそうでした。今ある仕組みや制度を「見える化」していくこと、そして労使の話し合いの際には安心して「言える化」していく事、長い目でみて制度を育てていく事も、働き方改革を成功させる上では重要なポイントだと私たちは考えます。
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