先の記事でもお伝えしている通り、私たちが考える働き方改革とは、本来楽しく、ワクワクすることです。働き方改革は自社の“こういう会社でありたい”を実現するためのものであり、言葉の定義をお伝えするとすれば、ふるまい方を変えて、新しい価値を生み出すことです。ではなぜ今ふるまい方を変えて新しい価値を生み出すことが求められているのでしょうか。
その最たるものとして挙げられるのが日本の人口減少であり、結果として労働人口が減少しているという人手不足の問題です。どんどん減っていく労働力を確保するためには誰もが働きやすい環境である必要があり、それが業務効率化や社員の定着、しいては長時間労働削減へと繋がっています。
その話をすると一部の方からの理解は得られるものの、どこか他人ごとの経営者がいることも感じています。「結局は国の問題でしょ?」と自分ごとになっていないのです。
では、働き方改革は国の問題であり私たちには関係がないのでしょうか。そんなことはありません。当然大きく関わってくるからこそ取り組む必要があるのです。
■働き方改革を必要不可欠にした3つの変化
1)「時代」の変化
いわゆる高度経済成長期は「答えは一つの時代」でした。誰もが物を欲しがり、企業はこぞって消費者が求めるものを作る。労働力はたくさんありましたから、残業が出来る人だけをふるいにかけて安い労働力に長時間働かせ、他社よりもいち早く市場に売り出すために早く安く大量に生産することを追求しました。
「イエスマン」という言葉に代表されるように、この時代は会社の言うことに従い、言われたことをこなす人材が求められました。それが会社にとっても従業員にとっても、うまくいくやり方だったのです。
それが「答えは一つではない時代」になり、今や世の中には物があふれ、むしろ過多になっています。新たな製品を売り出しても、多様化する消費者のニーズや価値観などをタイムリーにキャッチしたものでなければ売れません。仮に売れる製品を作り出したとしても、すぐに新しい商品やサービスにとって代わられるようになり、開発に時間をかけることもできない、といったことが起こっています。
コンサルティングの現場で経営者の方に話を聴くと、もはや「イエスマン」のような言われたことをする人ではなく、自ら考えて行動する人、すなわち、自律的で自主性のある人が欲しい、と言います。
2)「ソフト」の変化
私たちの中で動いている「ソフト」、つまりマネジメントのスタイルの変化です。
上述したように、上手く行くやり方や考え方が既にあり、それを実行したり、取り入れたりすることが成果につながる場合は、指示・命令型のマネジメントが有効です。上司である管理職が経験したやり方が成功するための唯一の方法であり、いかにそれを実行するかがそのまま会社の業績につながります。はじめは給料が安くても、長く務めることで知識や経験が増え、能力がついてくる状態になり、結果として収入が上がっていく。そんな年功序列型の仕組みになっていました。
ところが「答えは一つではない時代」になった今は、これまで上手く行っていたやり方や考え方が部下にも同じようにあてはまるとは限りません。例えば、新規の顧客を獲得するのに、これまでは飛込営業をし、足で稼ぐ営業が最も顧客獲得に有効な手段だったものが、今は門前払いで会ってもらうこともできなくなったとしましょう。となれば営業手法を変える必要があります。
またアポイントを取るにしても、電話が得意な部下もいればメールが得意な部下もいるはずです。最終的にお客様とアポイントを取ることが目的だとすると、それぞれが最も成果を上げられるやり方で進めることが最終的に望ましい結果を生みます。
自分が直接訪問で成果をあげていたからといってそれを指示・命令するのではなく、どのような結果をもたらせばいいのかという目的を伝え、どうすると上手く行きそうかを社員から引き出すことが必要になっています。
3)「オペレーティングシステム」の変化
「オペレーティングシステム」、すなわち私たちを動かす根本的な考え方が変わってきている、ということです。
答えが一つの時代は上手く行くやり方、すなわち正しい価値観は一つだったので、それを指示・命令で従わせることができました。正解があるので“間違っている人を正す”ということになり、人は外側の刺激で変えられる(外的コントロール)と思われていました。
それが答えが一つではない今は、信じられないかもしれませんが、新入社員に仕事をお願いしたら「それは私がやりたい仕事ではありません」と断る社員もいるという話を聞きます。仕事なのだからやって当たり前という話ではなく、仕事といえどもやりたくないことはやりたくない、という価値観の現れです。
もちろん仕事ですからそれでもやってもらわなければなりません。しかし、強制的にやらせようとしても、ついつい後回しにして着手までに時間がかかったり、着手したとしても進みが遅かったりとこちらが求める結果になりません。
つまり、人を直接変えることはできず、自らやりたいと思う動機によって動く(内的動機説)ということになります。
そこで大事になってくるのが、上述の自発性を引き出すコミュニケーションです。どのようなやり方であればやれそうか?を問いかけ、自分なりに考えてもらうのです。もちろんその結果が必ず上手く行くとは限りません。だからこそ、早いタイミングで現状どうなっているか、困っていることはないかを把握する必要があります。
その結果として1 on 1に代表されるようなコーチングのスキルや短時間・短サイクルでの面談の場が求められているのです。
■これまでと同じやり方でうまく行く方がおかしい
実はコンサルティングの現場でよく聞く声があります。それは「社員が変わらないからダメ」「会社が変わらないからダメ」というものです。
この声を聴くたびに、そもそも自分が変わりたくないと思っているのに、どうして他の人が変わることがあるのだろうか?と思いながら、それぞれがどんなことからならやろうと思うのか?について考えてもらうようにしています。
その原点にあるのは答えが一つではない時代になったからこその、「価値観は人それぞれ違う」「人は内的動機付けによって動く」といった、「人」の原理原則に立った考え方・やり方です。
今働き方改革の現場で起きていることは、答えは一つではないということも、自発性が必要だということも頭ではわかっているにもかかわらず、人を変えることが出来ると思っている、ということです。だから上手く行かないのです。
社会が大きく変化する今、私たち一人一人が価値観の変化という大きな進化をしているのです。だとすると、次に変えるのは私たちのふるまい方ではないでしょうか。
■変わっていないのは「働き方」だけ
このように答えが一つではない時代になったことで、一人ひとりの考え方や価値感が大きく変わり、結果としてうまくいく考え方ややり方が変わってきていることはご理解いただけたと思います。企業が生き残るためには、仕事におけるこれまでの「ふるまい方」を変えることで新しい価値を生み出すことが求められているのです。
それはつまり、社会の変化に合わせて私たち自身が変わっていく必要がある、ということです。マネジメントで言えば、イソップ童話の「北風と太陽」の北風のように強制的に旅人のマントを脱がせようとする北風マネジメントから、太陽のように、自発的に旅人がマントを脱いでしまう太陽マネジメントに変えていくことです。
それと同じように、会社の中でこれまで当たり前とされてきたルールや商習慣を変えていく必要があったり、コミュニケーションのやり方を変える必要があるのです。それこそが「働き方改革」であり、だから今「働き方改革」が求められているのだと私たちは考えています。
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