皆様の職場では採用活動は順調でしょうか?
令和3年8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.14倍となり、前月を0.01ポイント下回りました。前月を下回ったといっても、1.1倍を超える水準で推移しており、企業としては採用難の傾向が続いております。
厚生労働省が発表している2021年8月分のデータでは、全国で一番有効求人倍率が高いのは福井県の1.99。全国で一番有効求人倍率が低いのは沖縄県の0.79。地域差も激しくなっていると感じます。
参考:厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21246.html
人材不足の解消に向けて
人材不足の解消には、以下2つのアプローチが必要です。
・採用人数を増やす
・離職率を下げる
いくら採用出来たとしても、離職者が多ければ従業員数を維持することは出来ません。
離職者が少なくても、いつまでも採用が無ければ自然減となってしまいます。
「そんな事は当たり前だよ」との声も聞こえてきそうですね。
私も採用にはさんざん悩んできました。募集しても応募者がなかなか来なかったのです。しかし、ある時から、自分たちが一緒に働きたいとう思うような人たちがどんどん応募してくれるようになったのです。
いったい何が変わったのでしょうか?
以下、このコラムで私たちが採用活動にどう取り組んだかをご紹介いたしますので、何か取り組めそうなことがないか、確認していただければと思います。
応募人数を増やすための採用戦略
私はパチンコ業界で長く勤務し、店長としても多くの店舗を担当してきました。地元採用のアルバイトスタッフの採用は、面談から採用の合否まで店舗で対応していました。
全国展開しているチェーン店ですので、様々な地域で勤務し地域差も感じました。採用難の地域では、いくら募集しても応募すら来ないことがしばらく続くこともありました。
人事部に相談して社員異動により人員を調整してもらうこともありましたが、社員が増えてアルバイト比率が下がると、人件費の上昇につながりかねません。社員数は適正範囲に留め、アルバイト比率を高めにしておきたい。そうなると現地採用を強化するしかありません。
周囲の店舗の時給と比較して、「時給が安いから応募が来ないのか」と考えることもありましたが、募集の時給を上げてしまうと、同時に既存スタッフの時給も調整しなくてはならないので、人件費への影響が大きく、これは最終手段です。
そこで、見直したのが勤務条件でした。
勤務条件を大胆にみなおしたら応募者が増えた
パチンコ店での勤務は交代制ですので、店舗により若干の差はありますが、大体は早番が8時~16時半、遅番は16時~24時半、土日祝も勤務できる方が理想ということで募集をしていました。
今考えるとありえないと思いますが、当時はそれが普通だと思っていましたし、そう考えたのは私だけではなかったと思います。時給は店舗によって違っていましたが、異動しても大体同じような勤務条件での募集をしていました。
応募者側からすると、この勤務条件ではハードルが高すぎます。子育て中であれば保育園や幼稚園への送り迎えもあり、朝8時から働こうとすると無理も出てきます。土日祝は家族で過ごしたいとも思うでしょう。
実際、面接でこちらの勤務時間帯を伝えたら、それまではなごやかに話をしていた応募者の表情が曇ったこともありましたし、合格を出しても、断られることもありました。本人は働きたいと思っていても、保育園の送り迎えができないからと、家族から反対されたのです。
独身のフリーターや学生なら、週5日フルタイムでガンガン働ける方もいるでしょうが、地域によって、そういう方が少ない場合もあります。応相談と記載もしていますが、応募者の方からすれば、どこまで相談できるのか悩むでしょうし、それなら他を探そう、となることもあるでしょう。
そこで、私たちは大きく方向転換し、勤務条件を以下のように変えたのです。
勤務日は週1回~、勤務時間は短時間でもOK、もちろんその他の条件も応相談
つまり、基本的にはどんな方でも応募を受けるというスタンスに変更しました。その成果は大きく、今まで募集を出してもほとんど応募がなかったのに、いつ募集しても週2、3件の応募が来るようになったのです。
面接で気を付けたこと
次に工夫したのが面接です。
採用する側は、当然出来るだけ良い人材を採用したいと思っています。しかし、短い時間の面接で、応募者の全てがわかるかというと大変難しく、皆様も頭を悩ませることと思います。
私たちが採用する際に重視したのは人間性で、素直そうな方を採用するようにしました。経験者は即戦力として非常に有難いのですが、考えが固まってしまっている経験者より、未経験者の方が企業文化に馴染みやすく、組織運営には良いと思ったのです。
簡単に言うと、
「素直で良さそうな人は、勤務条件や経験関係なく積極的に採用する」という方向で採用活動を行うようにしました。これには未経験を前提で計画的に人財育成を取り組む、という考えが裏にありました。
面接の基本的な流れは以下になります。
- 会社の事や経営理念などを説明し、同じ方向で頑張れそうかを確認する共感採用
- 家族のことや勤務条件の確認
- 持病や腰痛など、体調について確認
- 適性検査
上記の事はどの店舗でも行っていたことですが、追加で私が行っていたことが、
- 今まで生きてきた中で嬉しかったことや楽しかったことは?
- 逆に、今まで生きてきた中で辛かったことや苦しかったことは?
という2つの質問でした。
嬉しかったことや楽しかったことは、少し考えれば大体の方がスラスラ話せます。反対に、辛かったことや苦しかったことは、人によって対応が分かれます。
理想は、「辛かったけど良い経験になった」とか前向きに答える方です。この様な方は、それまでの質問でも大概明るく受け答えしています。逆に「特にありません」と答える方はかなり気になりました。十数年以上も生きてきたら、辛かったことや苦しかったことは一つや二つくらいあるでしょう。
要するに質問は何でもいいのですが、自分がマイナスの印象になるかも、と感じたことでも素直に伝えることが出来る方かどうか、を判断していました。もちろん、こんな質問だけで判断できるようなことではないと思いますが、短い時間で判断するために、私が考えて実施していたことの一つです。
また、面接の方向性や基準は部下とも共有していました。私が不在時に面接が入ることも多いので、最初は私が同席して面接の状況を確認し、問題が無ければ任せ、落ち着けばほとんど部下に任せていました。
合否の最終判断は私の責任で行っていましたが、部下が自分なりに判断して報告してくれているので信頼もしており、確認程度に質問するくらいでした。
このような採用を続けていると、徐々に従業員の人数は増えてきます。人数が増えればシフト調整で工夫することで、従業員の採用、人件費削減、などの課題も解決されます。
朝から出勤する従業員ばかりだと、オープン直後の落ち着いた時間でも忙しい時間でも同じ人数なので「朝から人数が多いのは少しもったいない」と感じることもありましたが、短時間勤務の方の採用を始めてからは、忙しい時間だけピンポイントで人数を増やすことも可能となりました。
このような考えで採用が出来たのも、働き方改革やワーク・ライフ・バランスの実現、ダイバーシティ推進について会社で取り組んできた経緯があったからだと思います。
離職率を下げるために力を入れた人財育成
もう一つ、私が力を入れて取り組んだのが人財育成です。
それまで人財育成で課題に感じていた事は、主に次の3つでした。
- 日によって教える人が違う
- 現場ではOJTが中心になるが、教える側によって差がある
- どこまで教えられたのか、何が出来るのかがわからない
人の成長には、本人のやる気や教える側のレベルも重要ですが、一番重要なのは環境です。店舗風土として人材を育成する環境が整っていれば自然と成長するだろう、と考えました。
そのために次の3つのことをやりました
- 新入スタッフを全員で受け入れる雰囲気を作る
- メンター制度をスタッフにも導入
- 「たまひよノート」の運用業務基準の準備
新入スタッフを全員で受け入れる雰囲気を作る
まず、受け入れる雰囲気を作ることから始めました。新しくスタッフが入ったら、「新しく○○さんという方が入社しました」と従業員に周知し、休憩時間などでも自分たちから話しかけて緊張をやわらげ、早く店舗に馴染めるように全員で取り組むようにと促します。
従業員が離職するタイミングとしては入社間もない時期は多いのです。仕事が合わないなら仕方ありませんが、人間関係の問題、特にコミュニケーション不足は改善が可能です。店舗全体でウェルカムな雰囲気を作ることで離職率を下げることができます。
あくまでも職場ですので、仲良しクラブのようなゆるい職場を作るのではなく、明るく働きやすい環境を作ってチームで仕事しましょう、ということです。
メンター制度
次に担当者を決めます。いわゆるメンターです。一人が責任もって担当することで、わからなかったらとりあえずメンターに聞けば良い、と新入スタッフが困った時の窓口を作ることで、悩み相談などもハードルが下がり、入社間もない不安が多い時期の安心に繋がります。
入社直後の数日はメンターと本人が一緒に勤務できるようにシフトを調整していました。しかし、店舗は基本的に毎日営業しており、それをずっと続けることも出来ません。教える人間も日々変わることは必然です。
たまひよノートの運用
その解消のために、新人ごとに引き継ぎノートを用意しました。「今日はここまで教えました」「こんな所が良かった、ここが気になった」などを記載するようにしていました。
業務の基準も用意しました。業務を洗い出し、随時チェックしていくように表を作成。
- 教えた、フォローがあれば出来る
- 一人で出来るようになった
- 人に教えることが出来るようになった
というチェックの段階を作りました。
これにより、どこまで教えたのか、どこまで業務を覚えたのか、を誰が見てもわかるようになるので、日々教える人が違っても対応可能となり、フォローが必要かどうかも状況によって判断することも容易となります。某子育て雑誌に倣って、「たまひよノート」として運用していました。
店舗の労働環境の見直しは、衛生要因の向上に繋がります。衛生要因とは、「ハーズバーグの二要因理論」によるもので、従業員の不満をもたらすものであり、改善することにより不満防止となります。労働環境が整えば従業員の不満も減り、離職率も下がることとなります。
※従業員のやる気を引き出すためには、動機付け要因が必要となります。
これからの採用について
先にも記載しましたが、人材を採用するには応募が来ないと話になりません。
私は応募条件や採用条件を見直しましたが、これらは特に費用もかからない内容ですので、取り組みやすいかと思います。
またネット検索が容易な現在では、企業イメージや労働条件も非常に重要なものとなっています。いわゆるブラック企業などは言うまでもありませんが、企業の取り組みや労働環境に関して対外的にアピールすることも必要でしょう。
女性活躍やダイバーシティの推進、最近ではSDGsや健康経営、男性育休など色々ありますが、働く側にとって魅力を感じてもらえるようにすることも、企業努力として必要なことであり、自社内での対応が難しい場合には専門家に相談することを検討しても良いかと思います。
そのためにも、何でもかんでも取り組めば良いということではなく、まずは働く側に立って必要なことを考えてみることが、人材採用の見直しへの第一歩です。